中学校長インタビュー

2008年10月 武蔵高等学校・中学校 校長  山崎元男 先生

「自由」を重んじるからこそ手間暇かけて「責任」を教える

神田
武蔵ならではの行事というと、どのようなものがありますか。
山崎
生徒主体で行う行事としては、4月下旬に記念祭(文化祭)があります。例年たくさんの来場者があり、記念祭を見て武蔵に決めたという受験生も多いと聞いています。それから秋の体育祭と冬の強歩大会。強歩大会は20〜25キロのコースを歩くもので、コース選びから生徒たちによる委員会が行います。毎年、コンクリートの道を避け、またアップダウンの変化をつけるなど、さまざまな工夫をしています。
神田
委員に選ばれた生徒さんたちは、みんなの安全はもちろん、不慮の出来事に遭遇したときの対処も考えておかなくてはなりませんね。自由にできるとはいっても、無責任ではなく、責任を持って行動することが本当の意味の自由なのだという貴校の校風が、行事にも表れているように思います。
山崎
「三理想」の「自ら調べ自ら考える」を基本にすれば、何をしていいか、何をしてはいけないかも、自分で考えなさいということです。そういうことを一人ひとりに浸透させていくのは、とても手間がかかります。ですから、皆さんが想像していらっしゃる以上に、教員は生徒に目を向け、手をかけています。
神田
自ら考え自ら行動するという意味では、自主的な課外活動を支援するものとして野外研究奨励制度がありますね。これはどのようなものですか。
山崎
1997年に、島根県の隠岐島沖でロシアのタンカー「ナホトカ号」が座礁して重油が流れ出し、日本海沿岸の広い地域に漂着したことがありましたね。そのとき、ボランティアの人たちが重油をすくったり、水鳥を洗ったりしていましたが、そのなかに本校の生徒が何人かいたのです。その姿を見て、生徒たちが外で良いことをやっているなら、交通費などを少しでも援助してあげようじゃないかということで、教員たちが拠出してつくったのが野外研究奨励基金です。
偏差値だけで評価されがちな時代にあって、もっと多面的に、さまざまな面でほめてあげようということで、このほかにも生徒を対象とした賞がいくつかあります。まず根津賞は、創立者・根津嘉一郎翁の遺志によって、学業だけでなく人物面でも優れていると評価された生徒に与えられます。それから第2代、第3代の校長を記念した山川賞と山本賞は、それぞれ理科的研究と文科的研究に対して与えられます。これは学内選考ではなく、大学の専門の先生が審査するもので、高校レベルを超えた本格的な研究成果が評価されます。
神田
過去に受賞した研究のタイトルを拝見しても、レベルの高さがわかります。こういったものが高等教育への興味につながっていくのですね。ふだんの学び、興味が自然と大学へと結びつく、だからこその大学受験であって、合格のための大学受験ではないのですね。
山崎
その意味でも、早い時期に自分の進路を決めている生徒は進学でも結果を残しています。勉強のモチベーションも高くなるわけですから、当然でしょう。その意味では、昨年は進路を決めるのが遅かった生徒が多かったように思います。それが進学実績に多少表れているような気もします。一方、進路の多様化もあります。たとえば東大の合格者は減っていますが、それは東大を受ける生徒が少なくなっているからでもあるのです。
神田
保護者のなかには心配なさっている方もいらっしゃいますが、それぞれが自分の価値観を持って大学や学部を選んだ結果なのですね。自分で考えて決めた大学に進んでほしいという、先生方の望み通りになっているわけですから、まったく心配する必要はありませんね。
山崎
わたしも心配はしていません。進路は早い時期に決めてほしいとは思いますが、迷うことも意味があります。わたし自身もだいぶ回り道をしました。大学は物理学科で入り、卒業は日本文学科でした。生徒たちにも、悩みなさいと言います。もっとも、いろいろな調査結果を見てもわかるように、日本の若者は自分の将来像についてビジョンを描けない傾向があります。社会の役に立ちたいとかトップに立ちたいといった意識も希薄になっています。本校では、各界で活躍する卒業生たちによるキャリアガイダンスも行っていますが、そうした機会を利用して、明確に将来像を描けるようなヒントや情報などをできるだけ多く与えていきたいと考えています。

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