サピックス特別インタビュー
算数入試で問う力、
数学力を伸ばす授業〜成蹊中編〜
2025.05.23
成蹊中学・高等学校では、みずから課題を発見し解決する「0to1(ゼロトゥワン)」の発想が持てる人材育成に力を入れています。柔軟な発想を育てる同校の特徴的な授業と、入試問題の狙いについて、数学科の荻原隆夫先生に伺いました。

広野日々の授業で大切にしていることを教えてください。
荻原 中学で特に心がけているのは「説明する力」をつけることです。中学受験の算数は、一般的に、答えの正誤のみが重視され、そこに至るプロセスについては厳密に問われることはありません。しかし、中学から学び始める数学では、答えを出すために、いかに論理的な考え方ができるかどうかが重要になります。そこで、代数分野にしても、幾何分野にしても、まずは「きちんと答案を作る」ところから重点的にトレーニングしています。
広野 カリキュラムはどのように設定されていますか。
荻原 中1・2は、α(代数)を週3コマ、β(幾何)を週2コマ、中3になるとβが1コマ増えて、αとβが週3コマずつとなります。本校は成蹊大学への内部推薦制度がありますが、卒業生の約7割は外部の大学を志望する進学校でもあります。大学受験に備え、高2までに高校数学の範囲を学び終えるため、授業の進度はやや速めです。

広野 ひと昔前は、数学の学習というと、予習をメインに進める学校が多かった印象ですが、最近は復習を重視するところが増えてきています。貴校の場合は、どちらに重点を置いていますか。
荻原 本校でも復習に重点を置いています。中学生の力で予習できる量には限りがあるため、その分の時間と労力を、家庭での復習に充ててほしいからです。そこで、授業は説明よりも演習を中心に展開し、「授業で習ったことを自宅で確認する」というサイクルを定着させることで、学力向上につなげています。
広野 生徒の理解を深めるために工夫していることを教えてください。

荻原 わたしが意識しているのが「先生を増やす」ことです。つまり、授業中に、生徒が問題について自由に話し合う時間を設けることで、生徒に「先生」になってもらうというわけです。数学が苦手な生徒は、得意な生徒から新たな視点を得ることができますし、数学が得意な生徒も、自分の考えを言語化することで、理解を一層深めることができます。数学をきっかけに、ふだんは交流のないクラスメートとコミュニケーションが取れるというのも、クラスの雰囲気や関係構築に良い影響を与えていると感じます。
広野 次に、貴校の中学入試の問題の特色を教えてください。
荻原 大問1・2は基本的な計算と小問集合、大問3〜6は少し複雑な文章問題という構成です。大問1・2の配点は計50点ですので、ここだけ満点が取れても合格ラインには到達しません。つまり、残りの大問3〜6の発展的な問題に対して、どれだけ得点できるかが合否を分けると言ってよいでしょう。とはいえ、大問3〜6の問題のなかにも難度の濃淡はあります。基本的な問題は抜かりなく得点し、そのうえで発展的な問題にもがんばって食らいついてほしいと思っています。
広野 確かな基礎力と挑戦心を持った受験生に来てほしいという学校のメッセージが伝わってきますね。
荻原 わたしが授業で生徒によく言うのは、「逃げない」「ごまかさない」「あきらめない」の三つです。難問から「逃げない」こと。答えだけを写して「ごまかさない」こと。そして、最後まで「あきらめない」こと。これらは、数学の世界ではもちろん、世の中のすべての課題にも通じる姿勢だと思っています。世の中には答えのない問題が山積していますが、まず答えのあるものに対して、解決の糸口を見つけるのが数学です。数学の学びを通して、論理的な考え方の“型”をマスターすれば、解のない問題に対しても、きっと柔軟に対応できることでしょう。何事にも最後まで真摯に取り組む生徒に入学してほしいですし、そういう生徒こそ、本校で充実した中高6年間を送れるのではないかと思います。

School
Data
- 所在地
- 〒180-8633 武蔵野市吉祥寺北町3-10-13
- TEL
- 0422-37-3818
- 学校長
- 仙田 直人
- 創立
- 1912年に前身となる成蹊実務学校を創立。
1947年に現在の成蹊中学校、1948年に成蹊高等学校を開校。 - URL
- www.seikei.ac.jp/jsh/

「個性と多様性の尊重」「根底からの学び」が多彩な進路で開花
1912年創立の成蹊学園は、創立者・中村春二の「知育偏重ではなく、人格・学問・心身にバランスの取れた人間教育を実践したい」という思いを100年以上にわたって受け継いできた伝統校です。幅広い教養を身につけるリベラルアーツを重視し、生徒一人ひとりが自らの「琴線に触れる」機会と数多く出会うことができるように、「本物に触れる」体験を豊富に設けています。また、みずから課題を発見し、解決していくための探究的な取り組みも多く取り入れており、グローバルな体験や多様な学びを通じて、心豊かな人間性を培っていきます。