サピックス特別インタビュー

算数入試で問う力、
数学力を伸ばす授業~駒場東邦中編~

2025.08.21

駒場東邦中学校・高等学校では、「自主独立の気概」と「科学的精神」を柱とした教育活動を実践しています。その二つを備えた有為な人材を育てる授業の工夫と、入試のポイントについて、数学科主任の藤井芳紀先生に伺いました。

(左)数学科主任 藤井 芳紀先生 (右)インタビュアー SAPIX小学部 教育情報センター 本部長 広野 雅明 氏

広野 数学のカリキュラムの特徴を教えてください。

藤井 中高一貫校向けの教材『体系数学』を使い、中1では代数が週3時間、幾何が週2時間、中2では代数が週2時間、幾何が週3時間と、それぞれ合計5時間の授業を行っています。中2の前半までで中学内容をすべて学び終え、中2の後半からは高校内容に入ります。高3で文系・理系に分かれますが、本校の特色は全員が数Ⅲまで履修することです。これによって、あらゆる問題に対応できる総合的な力の習得をめざしています。

広野 授業を進めるにあたって、工夫していることはありますか。

藤井 中2から高2において1クラスの生徒を2グループに分けた分割授業を行うなど、学年ごとに授業形態を工夫することで生徒一人ひとりに目を配った丁寧な指導を心がけています。また、数学的思考力と表現力をバランスよく身につけることを大切にしています。一つの問題に対して複数の生徒で解答を考えたり、解答の過程を生徒同士で説明し合ったり、多彩なグループワークを通して理解を深めていきます。

数学の授業の様子

広野 現在、先生は中1を担当されていますが、「算数」から「数学」への移行に戸惑う生徒も少なくないと聞きます。どのように対応されていますか。

藤井 答えだけなら頭の中ですぐに導き出せるものの、途中式が書けない、あるいは書き方がいい加減な生徒が散見されます。そのため、ノートを回収したり、小テストを実施したりして、細かくフォローするように努めています。基礎学力の定着が芳しくないと思われる生徒には、居残り学習や再テストを行うこともあります。何かペナルティを課すというよりは、つまずいている原因を一緒に探っていこうというスタンスです。
本校では、2022年度から「駒サポ」という放課後学習サポートシステムを導入しています。これは、本校OBを中心とした講師が放課後に生徒の質問を受け付けるというものです。部活動後にも利用することができ、学習習慣を身につける手助けとなっています。

広野 家庭学習の量も多いのですか。

グループワークを通して、理解を深める

藤井 比較的多いほうではないでしょうか。たとえば、次に行われる定期試験の範囲の「問題集チェック表」を渡すなどして、自ら目標を設定させ、計画的に勉強を進めるよう促しています。どのくらいのペースで解き進めるのが自分にとって最適かを探ってもらいたいからです。ここで大切なのは、勉強の習慣化です。生徒たちには、「どれだけ疲れていても、1日5問は手を動かそう」と伝えています。

広野 次に、中学入試についてお伺いします。毎年、貴校はオリジナリティーの高い問題を数多く出題されていますが、どのような作題を心がけているのでしょうか。

居残り学習で基礎学力の定着を図る

藤井 自分で方針を立てて答えに辿り着くための論理的思考力や、技術だけでなくイメージする力を問う問題を出題しています。前者では、複雑な計算作業にも粘り強く取り組む力を、後者では一つの問題に対して多面的に捉える力を評価したいと思っています。諦めずに試行錯誤する力や、様々な角度から物事を考える力は、この先の長い人生に待ち受ける問題に対峙したとき、必ず役に立ちます。一つ一つの学びを積み重ねて自身の成長につなげることでいかなる環境においても適応でき、なおかつ冷静に物事を判断し、多角的な視点を持って問題を解決する力を身につけてほしいというメッセージでもあります。

広野 最後に、受験生に向けてアドバイスをお願いします。

駒場東邦放課後学習サポートシステム、通称「駒サポ」

藤井 算数を苦手とするお子さんに多いのが、わからない部分があるとすぐに解答を見て、わかったつもりになってしまうことです。わからないところは、皆さんの“伸びしろ”です。解けない自分を恥ずかしいと思わず、「どうすればわかるようになるのだろう」とポジティブに取り組んでほしいと思います。わからないことがあれば、学校の先生や塾の先生など、相談できる人に声を掛け、つまずきの原因を一緒に考えてもらい、少しずつでも着実に力をつけてほしいと思います。

入試問題にチャレンジ2018年 駒場東邦 入試問題

School
Data

所在地
〒154-0001 世田谷区池尻4-5-1
TEL
03-3466-8221
学校長
小家 一彦
創立
1957年に東邦大学が駒場東邦中学・高等学校を設立。高校募集を1971年に停止し、中高6年間一貫教育を確立。
URL
www.komabajh.toho-u.ac.jp
校舎写真

中高一貫の系統的プログラムで、豊かな知性と人間性を育む

東京大学を中心とする文教地域に位置する完全中高一貫校です。教育目標とするのは、科学的精神に支えられた合理的な考え方と、自主独立の精神を持つ人材の育成。創立当初より中高6年間を一体化した教育を重視し、効率的なカリキュラムにより、難関大学進学をめざす学習指導を行っています。人格形成にも重点を置き、生徒の個性を伸ばす機会を設けるとともに、豊かな人間性を育む場として、行事や課外教育にも力を入れています。OB会「邦友会」とのつながりが深く、各界で活躍する卒業生が講演会を多く開催している点も特徴的です。