サピックス特別インタビュー

中学入試で問う力、
理科力を伸ばす授業〜鷗友学園女子中編〜

2025.05.29

1935年の創立以来、「慈愛と誠実と創造」を校訓に掲げる鷗友学園女子中学高等学校では、近年、理系進路を志望する生徒が増加しています。理系人材を育てる授業の特色や入試問題の特徴について、理科教諭の若井由佳先生に伺いました。

(左)校長 柏 いずみ先生 (右)理科 若井 由佳先生 (中)インタビュアー SAPIX小学部教育情報センター 本部長 広野 雅明 氏

広野まずはカリキュラムの特徴を教えてください。

若井 最近の生徒たちを見ていると、分子・原子・電子といった「見えないもの」に対する理解の難しさが、“理科嫌い”の原因になっているケースが多いと感じます。そこで、本校ではまず、身近なところから理科に興味を持ってもらおうと、中1の段階では、週3コマの授業すべてを“目に見える”生物分野に割いています。中2になると、物理2コマ、化学2コマ、地学1コマの週5コマを設定し、中学内容をひと通り学び終えるカリキュラムとなっています。

広野 実験の機会も多いのですか。

若井 はい。中2までは、ほぼ毎回の授業で実験を行います。生徒には「実験書」という位置づけのオリジナルテキストを配布し、それをメインに授業を進めていきます。また、本校では、生徒たち全員に基本的な実験操作を習得させるため、定期考査のなかで「顕微鏡のピントを合わせることができるか」「ガスバーナーに火をつけることができるか」「電流計や電圧計を正しく扱うことができるか」などの実技テストを行い、その定着度を確認します。そうして基本的な技能を身につけた生徒たちは、中2の後半から仮説検証型の実験に取り組んでいきます。これは、自分たちで仮説を立て、検証し、 その結果をグループで話し合うもので、正しい結果を求めることが目的ではありません。「こうすれば実験がうまくいくのではないか」「こんなデータが取れるのではないか」と、グループ内でさまざまな意見が交わされます。失敗から学びを得るプロセスこそが、理科の学びの面白さであり、科学的思考を養うための重要なステップだと考えています。

広野 なかでも特徴的なものを教えてください。

中学生は実験を中心に授業を展開。年20回以上の実験を行う

若井 中2では、「複数回スーパーボールを発射させ、何度やっても同じ位置にボールが着地するような発射台を作る」「缶の中に乾電池を入れて斜面を転がしたとき、乾電池の数と缶の転がり方にどのような法則があるかを探る」、中3では「10種類の白い粉の正体を調べる」、高1では「ブタの頭かカエルのどちらかを選んで解剖する」などがあります。いずれもグループで実験計画書を立て、検証し、最後はその振り返りを行います。社会に出れば、決められた課題、用意された課題はありません。まずはその課題に気づくことが大切です。仮説検証型の実験を通して身につく科学的思考が将来役に立つと考えています。

広野 次に中学入試について伺います。入試問題の特色を教えてください。

物理・化学・生物・地学、各分野のオリジナルテキスト

若井 今年度の入試では、炭酸カルシウムに塩酸を注ぐ実験を取り上げ、そこから鍾乳洞の仕組みにつながる問題を出題しました。受験生には少し難しかったようですが、こうした問題は、皆さんの身の回りにある現象を、理科の知識を活用しながら考えてほしいという学校からのメッセージでもあります。

広野 問題に取り組むうえで、受験生が心がけるべきポイントは何でしょうか。

若井 ただ知識を覚えて終わりではなく、複数のデータを組み合わせて答えを導き出す姿勢を大切にしてほしいと思います。今年度の入試で差がついたのは、湿度から空気中の水蒸気量を導き出す問題でした。グラフや表など、複数のデータに目を通したうえで必要な数字を抽出しなければならず、公式の知識だけを頼りに解こうとした受験生にとっては対応が難しかったようです。このような複雑な問題に対処するためにも、日ごろから「なぜ」「どうして」という視点を忘れずに、物事の本質的な理解を心がけてほしいと思います。
ほかにも、カラー写真を多用した問題や記述問題など、本校の試験にはいくつかの特色があります。4分野をまんべんなく学習し、知識と現象のつながりを意識しながら、問題に取り組んでみてください。

入試問題にチャレンジ2025年鷗友学園女子中学校第1回入学試験問題 理科

School
Data

所在地
〒156-8551 世田谷区宮坂1-5-30
TEL
03-3420-0136
学校長
柏 いずみ
創立
1935年、鷗友会(現東京都立白鷗高等学校同窓会)が鷗友学園を設立。 戦後の学制改革で鷗友学園女子中学高等学校となる。
URL
www.ohyu.jp
校舎写真

独自のカリキュラム編成で、実践力のある女性リーダーを育む

校訓は「慈愛(あい)と誠実(まこと)と創造」。創立時から、キリスト教的な精神や自由主義をすべてのカリキュラムの基盤としながら、他者も自分も尊重できる「思いやりの心」を育んでいます。授業では、生徒が主体的・能動的に学ぶ「アクティブ・ラーニング」を重視。学問領域を超えて自由かつ積極的に学び、「総合力のある人間」を育てることに力を入れています。集団のなかで社会性や個性を育みながら周囲と協調して社会貢献できる女性、自分とは異なる価値観を認めながら新たなものを創造できるリーダーの育成をめざしています。