サピックス特別インタビュー
中学入試で問う力、
考える力を養う社会科の授業〜駒場東邦中編〜
2025.08.27
駒場東邦中学校・高等学校では、「自主独立の気概」と「科学的精神」を柱とした教育活動を実践しています。その二つを備えた有為な人材を育てる授業の工夫と、入試のポイントについて、社会科の井田佐恵子先生に伺いました。

広野中学の社会科のカリキュラムについて教えてください。
井田本校では、中1で地理と歴史からなる地歴と公民を、中2で地理・歴史を、中3で歴史・公民を学びます。一般的に、公民は中3で扱う学校が多いのですが、本校では中1から履修します。その理由は、初めに「地理の視点」「歴史の視点」「公民の視点」をひと通り身につけ、それを後の発展的な学びにつなげてもらいたいと考えているからです。
広野先生が担当されている、公民の授業の特徴を教えてください。

井田中1ではまず、メディアリテラシーを徹底的に学びます。一つのニュースを巡る各新聞社の論調の違いや、同じ場面の写真でもアングルや切り取り方によって受ける印象の違いなどを生徒同士で話し合い、情報発信者の立場や意図、受け手の先入観等を意識しながら、情報の持つ意味を主体的に考えることの大切さを知ってほしいと考えています。その最適な題材として、よく取り上げるのが選挙です。実際の政党ポスターやマニフェストを並べて、そこから読み取れる各党の狙いについて考察を行うほか、国政選挙が行われるタイミングでは、全校規模で模擬選挙を実施しています。この模擬選挙では、選挙管理委員会として有志のボランティアを募り、受付、名簿照合、開票、集計までを忠実に再現するのが特徴です。生徒たちにとってこの取り組みは、選挙制度の意義と問題点に気づき、現実の政治課題につなげて1票の重さを実感する良い機会になっています。

広野地理・歴史の授業はいかがですか。
井田地歴融合の視点を大切に、科目横断的な授業を行っています。たとえば、中1は長野県諏訪市の霧ヶ峰へ林間学校に出掛けますが、それに合わせて、授業でも霧ヶ峰・諏訪を舞台に多角的視点から地域社会への理解を深める方法を学びます。今年度は、「移住先として薦めたいのは、世田谷区、名古屋市、諏訪市のどこか」というテーマで発表を行いました。統計データを活用した生徒たちのプレゼンテーションは説得力が高く、見応えがありました。

広野次に、高校のカリキュラムについても教えてください。
井田高1は歴史総合・地理総合・公共を必修とし、高2以降はそれぞれの進路に合わせた選択授業となります。なかでも特徴的なのは高1の公共で、1学期は討論、2学期は対話、3学期は合意形成と、1年を通じて様々な対話の技法を段階をふんで経験してもらいます。「社会課題を解決するビジネスプランを提案しよう」という取り組みでは、家事代行や家庭教師等の手配が難しい家庭向けの、資格を得たVTuberによる次世代型お子様見守り&教育支援サービス、その名も「バーチャルおかん」等、独創的かつ合理的なアイデアがいくつも見られました。生徒たちには様々な議論を通じて、話し合うことのおもしろさ、合意形成の難しさ、アイデア創出の醍醐味を味わってほしいと思っています。


広野コミュニケーションを通して一つの意見にまとめるという作業は、大学入学後も必要となるスキルですから、生徒たちにとっても良い訓練になりますね。次に、中学入試について伺います。入試問題の特色についてお聞かせください。
井田われわれが求めている知識は、あくまで小学校教科書に準拠したものですが、どの分野においても、受験生が日ごろから抱いている社会への問題意識と、目の前に提示された条件や資料を組み合わせて、適切にアウトプットする力を見たいと考えています。「このワードが出たらこう書く」と型にはまった解答を訓練されている受験生が多いのか、問題の趣旨とずれた答案も見受けられます。何が問われているのかを正しく読み取り、そこから導き出した考えを自分のことばで表現してほしいですね。

School
Data
- 所在地
- 〒154-0001 世田谷区池尻4-5-1
- TEL
- 03-3466-8221
- 学校長
- 小家 一彦
- 創立
- 1957年に東邦大学が駒場東邦中学・高等学校を設立。高校募集を1971年に停止し、中高6年間一貫教育を確立。
- URL
- www.komabajh.toho-u.ac.jp

中高一貫の系統的プログラムで、豊かな知性と人間性を育む
東京大学を中心とする文教地域に位置する完全中高一貫校です。教育目標とするのは、科学的精神に支えられた合理的な考え方と、自主独立の精神を持つ人材の育成。創立当初より中高6年間を一体化した教育を重視し、効率的なカリキュラムにより、難関大学進学をめざす学習指導を行っています。人格形成にも重点を置き、生徒の個性を伸ばす機会を設けるとともに、豊かな人間性を育む場として、行事や課外教育にも力を入れています。OB会「邦友会」とのつながりが深く、各界で活躍する卒業生が講演会を多く開催している点も特徴的です。