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中学受験フォーラムこぼれ話②
~志望校対策の意義
2025.06.02
サピックス小学部 事業本部長 溝端 宏光

前回に引き続き、中学受験フォーラムこぼれ話の2回目です。
今年度の中学受験フォーラムでは、中学入試における知識の要求水準が年々上がってきており、近年は、その要求水準が、小学生が到達できる限界値に近づきつつあることを説明しました。さらに、その状況を踏まえ、「努力の重要性」が増してきていること、「志望校対策」の優先度は下がってきていることもお伝えしました。
「志望校対策」の意義について、フォーラムの中では時間の関係で詳しく触れることができませんでしたので、その話をしたいと思います。
私は、志望校対策の意義は主に3つあると考えています。1つ目は“形式への慣れ”です。制限時間が何分で、どういった形式で出題されるのかに慣れていくことです。これは、過去問を解いたり、過去問に似た模擬試験を経験したりすることで養うことができます。そして2つ目は、“頻出単元の強化”です。志望校で頻繁に出題される単元の理解を深めておくことはもちろん重要です。
ただし、この2つはどちらも各分野の基礎学力を十分養った上で行うべきことです。たとえば、形式に慣れたとしても、問題に正解できるだけの基礎学力が不足していては意味が無いことは言うまでもありません。また、過去の頻出分野を狙い撃ちして特定の単元のみ学習を進めていたのでは、出題傾向に変化があったときに全く対応できなくなってしまい、とても危険です。
要求水準が上がっているということは、入試における“標準”のレベルが上がっているということです。当然、それを身につけるためにかかる労力は相当なものになります。
志望校対策に取り掛かるのを焦るあまり、基礎学力の充実がおろそかにならないよう気をつけなければなりません。
私は算数を担当しており、中学校の数学の先生方とお話をさせて頂く機会も多いのですが、お話を伺うと、学校の中で、塾の教材や市販されている参考書・問題集を資料として取り揃えられていることが多いです。
問題文の表現が妥当かどうかを確認するために用いられることもあるようですが、受験生がどんな内容を勉強してきているのかを把握するという目的もあるようです。中には、受験生の併願先となる他校の問題を研究されているケースもあります。
こうしたことを考えると、実は、その学校で過去に出題された問題ばかりを追いかけるのではなく、今の入試で良く出題される内容を幅広く学習しておく方が、入試で「当たる」可能性が高いのですよね。どうしても、志望校に特化した対策をした方が合格に近づけると思ってしまいがちですが、実際のところは幅広く学習しておいた方が有利になる可能性が高いのです。

志望校対策をしていると、必要なことを進めているという“安心感”を得やすいです。ちなみに、志望校対策の意義の3つ目がこの“安心感”です。
入試に挑む際に、
「志望校対策をしっかりしてきたからきっと大丈夫!」
と自分を奮い立たせられること。
“安心感”は入試で実力を発揮するために大事なことですから、「心理的なものに過ぎない」と軽視して良いものではないのは間違いありません。
ですが、その“安心感”が全てを解決するものではないことも確かです。
受験生とその保護者の方は、どうしても何かしらの“安心感”を得たくなるものです。
気持ちとしてはとても理解できるのですが、それが行き過ぎると、目先の利益だけを追うことになってしまいます。
その状況を避けるためにも、志望校対策の効果とその限界を知っておくことは、適切に学習を進めるうえで非常に重要です。
長くなってしまいましたが、バランスの良い学習を進めていくうえで、今回の話が役に立つことを祈っております。