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以心伝心は諸刃の剣
2025.07.22
サピックス教務本部
親子の間では、言葉にしなくても思いが伝わるということはよくあることかと思います。あまり会話を交わさなくても、子どもとは意思疎通ができているという親御さんも多いのではないでしょうか。日本では、「以心伝心」という言葉があるように、あえて言葉にしなくても手に取るように互いの思いが伝わる関係が、理想の関係だとみなされてきたように思います。もちろん、言葉によらなくても気持ちが通じ合う親子の姿は、うらやましくもある理想の関係であることは間違いないでしょう。しかし、お子様の学力を伸ばすという点においては、この「以心伝心」に寄った最低限の情報伝達によるコミュニケーションが常態化することは、あまり好ましくないのです。
例えば、「トイレ」、「おやつ」などのように、日常のコミュニケーションを単語で済ませ、「後は察して…」と相手に甘えてしまうケースは親子間で良くあることではないでしょうか。でも、単語レベルの会話で察してもらえるのは、いつも一緒にいる家族間に限られます。これではお子様が他者に自身の考えをわかりやすく説明し、発信する力が身につきません。次に、「頑張っているね」、「いつもありがとう」といった賞賛や感謝の言葉を「言わなくても家族なのだから伝わるはず…」という理屈で口にしない、というケースもあるでしょう。この場合も、せっかく自身の気持ちを相手がどう受け止めるかを考えて表現し合う機会が奪われ、お子様にとっては、情緒を豊かにし、国語の力を伸ばす芽を摘んでしまうことになるのです。最後に、親が子どもに意思確認をするとき、イエス、ノーで答えられる質問ばかりをしてしまうケースもよく見られます。これは結果として自己表現をする機会を直接的に奪っているのですが、やはり、普段の会話でも、なるべくその時の状況に応じて自己を表現する機会を設けてあげることが、お子様にとっては良い刺激になるのです。
ちょっとした日常のコミュニケーションにおいても、時には「以心伝心」に寄ったミュニケーションから離れ、お子様との「対話」を意識してみてください。「対話」を通して、相手の話を理解し考えること、相手の気持ちを想像して言葉を選ぶこと、自らの思いを的確に表現すること、といった、あらゆる学力の根幹を成す力が自然と育まれていくものです。そのためには、日々無数に交わされる親子のコミュニケーションから見直してみるのも、大切なことかもしれません。