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【総括】「わかっている」ことを確認するのはもっと難しい③

2025.10.27

サピックス小学部 事業本部長  溝端 宏光

サピックス小学部 事業本部長
 溝端 宏光

前々回のコラムでは、

  • 雑学レベルで知っているだけのことを「わかっている」と思い込んでいる子が多い
  • 理解の度合いがどのレベルになったら『(自分はこれが)わかった』と判断するのかは、人によって大きく異なる

ということを述べ、前回のコラムでは、

  • 「何に取り組んだか」よりも「どのように取り組んだか」の方が、学力の伸びに与える影響は大きい
  • 保護者の方の不安を解消する学習法が、必ずしもお子さまにとっての適切な学習法とは限らない

と述べました。

それを踏まえて、本人が「わかっている」と思い込んでいることの確認をする難しさについて、触れていきたいと思います。

なぜ難しいのか?
その理由は単純です。
「わかっている」と思ったら、聞こうとしないからです。
情報を取り入れるシャッターが下ろされている状態ですね。

「何に取り組んだか」よりも「どのように取り組んだか」の方が大事ということは、取り組み方の質を高めることが大事ということです。
しかし、質が高いかどうかは、明確な指標で示すことができません。
だからこそ、お子さまが自分自身で「わかっている」「できている」と感じれば、それが本人の中での“事実”になってしまうのです。

人は、自分が必要だと思うことしか取り入れようとしないものです。必要性を理解していない相手に対していかに正論を述べたとしても、聞き流されるか「もうわかっている」と反発されるかのどちらかになるでしょう。
大人同士でもこのようなことは起こり得るわけですが、親子間で似た経験をされた方は多いのではないでしょうか。

だからこそ、アドバイスをする際は次の2点のいずれかであることが重要になります。

  • ① 本人が必要性を感じるタイミングである
  • ② ①のタイミングでないときは、本人が必要性を実感できるように上手に話す

前々回のコラムで、「逆比」を例に挙げて授業の中でどのようなやり取りをしているかを紹介しましたが、これは、「表面的なことを知っている」ことと「わかっている」ことは別なのだということを実感してもらうための仕掛けです。
つまり、上の②のための仕掛けですね。

ただ、ご家庭では②の仕掛けを作ることはなかなか難しいと思います。
ですので、①の「良いタイミングをはかる」ことを意識して頂くのがよいでしょう。

その際の注意点は、声掛けの目的が、保護者の方の不安を解消することに偏らないようにすることです。

たとえば、100点満点のテストでお子さんが95点取れたとしましょう。
多くの場合、お子さんは「95点取れた」ことに意識が行き、保護者の方は「5点失点した」方に意識が行きます。同じ結果を見ていても認識が違うわけですね。

保護者の方は「5点失点した」ことが気になっているので、見直しの重要性を説いたり、間違えた問題の要因を追及したりしたくなるものですが、本人が「95点取れた!」と思っていると、そのアドバイスは響かないだけではなく、場合によっては、「良い点を取っても褒めてもらえず欠点ばかり指摘される」という気持ちが生まれてシャッターを閉じられる結果になってしまいます。

声掛けのタイミングは、本人に響きそうなときを狙って行うのがコツです。
そして、回数も厳選した方がよいでしょう。

普段から細かいことを指摘し続けていると、シャッターは常時閉じられている状態になります。“スルースキル”が上がって耐性がついている状態ですね。
一度耐性がつくと、解除するのはさらに大変ですので、アドバイスは「ここぞ」というタイミングに留めることをお勧めします。

そして、言い方にも注意が必要です。内容が正論であったとしても、一段上の立場から押しつけるような言い方をすると、多くの場合は反発されますので、今頑張っていることやできていることを認めつつ(中学受験フォーラムでもお伝えした「共感力」ですね)、手を変え品を変え、課題となることを上手に伝えていきましょう。似た内容の話であったとしても、言い方を都度変えていくことが有効です。

アドバイスはとにかく回数を増やせばよいというものではありません。
同じことを話す回数を増やせば増やすほど、お子さんは「もうわかっている」と思い、アドバイスへの感度が鈍くなっていくからです。

また同様のことは、学習についても言えます。
中途半端に表面的な知識を得てしまうと、それだけで「もう知っている」と満足してしまい、本来その内容に付随して理解しておくべき内容を軽視したままになってしまうケースがあります。

保護者の方の中には、「早くから色々と準備をさせておくと受験に有利になるのでは…」と考え、低学年から極端な先取り学習をさせようとするケースも見られますが、上記の状態に陥ってしまうリスクがあることは事前に知っておくべきでしょう。

サピックスが予習を課さず、授業の中で考え、教わることを大事にしている理由はそこにあります。

前回のコラムで、「深く学ぶ」ことを具体的に言葉にするのは難しいと述べましたが、本来は、言語化して伝えるよりも実際に体感して身につけてもらう方が小学生には実戦的です。ですので、我々サピックスの教師は、授業の中で、子どもたちが自然と深く考えられるような工夫をいろいろと行っています。「どのように取り組めばよいのか」を、授業を通じて実体験できるようにしていると言いかえてもよいでしょう。

毎年卒業生の方から、「サピックスの授業は、内容を深く教えてもらえるので非常に楽しかった」という感想を多く頂きます。
できれば真っ新な状態で授業を受けて頂き、考えることの楽しさ、知る喜びを実感しつつ、深く学ぶことを実践して頂きたいと願っております。