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好きこそものの上手なれ?②
2026.03.23
サピックス小学部 事業本部長 溝端 宏光
溝端 宏光
前回のブログ「好きこそものの上手なれ?①」では、自身の小学生時代、算数は“好き”ではあったものの、取り組み方は決して褒められたものではなかったことに触れました。
その最後で、「次回は、字が汚いことの意味や“必勝法”の扱い方、そして“好き”であることの効能について触れたいと思っています」と書きましたので、今回はその話から始めたいと思います。
「(わが子の)字が汚くて困っている」
“よくある相談ランキング”を作ると間違いなく上位に来ると断言できるくらい、頻繁に受ける相談です。実際、3月上旬に実施した中学受験フォーラムで講演中にアンケートを取ったところ、どの会場でも全体の7~8割くらいの方が「わが家にあてはまる」と回答されました。
この相談、国語の講師に話を聞くと、おそらくは「丁寧に書くように指導すべき」という回答が返ってくるのだと思います。しかしながら、私は算数を担当しており、算数に限って言えば少し違った見解を持っています。
算数において“字が汚い”というのは、頭の回転が速いお子さんによく見られる現象です。
頭の回転が速いお子さまの場合、幼いうちは特にそうですが、頭の回転スピードに合わせて物事を進めたいと考えてしまいがちです。しかし、頭の回転スピードと文字を書くスピードを比較すると頭の回転スピードの方が速いです。そのため、頭の回転スピードに文字を書くスピードを合わせようとして字が汚くなってしまうことがあるのです。
この場合、「字を丁寧に書きなさい」と指導することは、必ずしもプラスになりません。“頭の回転スピードを落としなさい”と言っていることと同義だからです。頭の回転スピードを抑制することは、本人がストレスを感じる要因にもなります。多くの場合、精神的な成長に伴って、頭の回転スピードと物事を進めるスピードの折り合いをつけることができるようになっていくものですので、あまり早い段階で言いすぎないことがコツです。
なお、念のため申し上げておきますが、字が綺麗で、なおかつ頭の回転が速い子もいますので、字が綺麗なことがダメというわけでは全くありません。先ほど述べたことからわかる通り、このタイプのお子さまは精神年齢が高いことが多いです。自分の思考スピードと書くスピードのバランスを上手に取るのは小学生にとって難しいことですので、それが実行できる子はどうしても少数派になってしまうというだけの話です。
ここまでは、字の丁寧さについて話をしてきましたが、実は、解き方を書くことについても同様のことが言えます。
「解き方をきちんと書きなさい」と言うことも、“解き方を書くスピードに思考のスピードを合わせなさい”と言うことと同じなので、あまり早い段階で言いすぎないことがコツなのです。
もちろん、テストで安定して高得点を取っていくためには、発想の鋭さだけではなく、確実性を高めることも必要です。では、どうバランスを取っていけばよいのでしょうか。
私は、算数を指導する上で、6年生の夏ごろまでは次のように言っています。
解き方は、自分で見てわかる程度で良い
ただし、答として書く数字は、他の数字と誤認されない字を書くこと
6年生の夏ごろまでは、頭の中だけで処理できるレベルの問題については解き方を書かずに済ませても良いが、頭の中だけでは処理しきれないものは、自分が確認できる程度の解き方を残しておくように伝えています。
解き方を書く、書かないもそうですし、どの程度解き方を残しておくのか、文字の丁寧さはどの程度かについては、“自分が見て確認できるかどうか”が基準で良いということです。
中には、答案に計算の結果だけが散らばっていて、後で本人が見てもどのように解いたのかがわからないものや、字が汚すぎて本人が見ても何を書いているのか判別できないものがあります。そうしたものについては当然指導するのですが、この段階では、他人が見てわかる内容にする必要はありません。
受験する学校によっては、解き方の記述を求められるケースがありますが、その練習は、6年生の9月以降で十分間に合います。
頭の中だけで処理できることを増やすことは、算数の学習を進める上では非常に重要なことです。あまり早い段階から形を整えることに拘りすぎると、かえってマイナスになってしまうことがあるため、注意が必要です。
そもそも、頭の中で処理できると本人が感じている問題について、「解き方を書きなさい」と指導しても、ほとんど効果がありません。本人がその必要性を感じていないからです。
「解き方を書くように」というアドバイスは、お子さま自身が有用性を実感できる場面で伝えることが大事です。どの段階で有用性を感じるのかは個人差が大きいため一概には言えませんが、一番遅いタイミングですと、6年生の夏以降に入試レベルの問題を解く段階になって初めて有用性を実感するということも珍しくありません。
ただし、「他の数字と誤認される数字は書かないようにすること」だけは、早い段階から指導しておいた方が良いでしょう。よくあるのは「0」と「6」が判別できない、「1」と「7」が判別できない、といった、他の数字との判別が困難であるケースですが、それ以外にも小数点が長すぎて「1」に見える、あまりに形がいびつ過ぎてどの数字にも見えない、消しゴムを使わずに上から書き直しているので文字が判別できない、と言ったこともあります。
これらについては、「テストで×になるから」という、どの学年のお子さまにとってもわかりやすい理由付けができますので、早い段階から伝えていくのが良いでしょう。
6年生後期に解き方の記述を練習する際のことについても触れておきましょう。
基本的に子どもたちに伝えることは、「解く手順を飛ばさずに書くように」ということです。テキストの解説に書かれているような言葉による説明をする必要は無く、解くのに用いた式や図などを残すことができていればそれだけでOKです。数学の証明とは違いますので、あまり難しく考える必要はありません。
そして、この段階になって初めて、思考のスピードを少し落としてでも正確性を上げることの大切さを説いていきます。
なぜこの時期なのかと言うと、
- 入試が近づいてきており、「正確性を上げることが大事」という話が伝わりやすいこと
- 問題難度の上昇により、精度を上げて取り組まないと正解できないことが実感できること
- 精神的に成熟してくる時期なので、自己コントロールがしやすいこと
が挙げられます。先ほどの「解き方を書く」話と同じく、子どもたちが必要性を実感でき、なおかつ実行可能であるタイミングで行うことが重要なのです。
ですので、繰り返しになりますが、保護者の方には、あまり早い段階から極端に確実性を求めることが無いようにお願いしたいと思います。
前回と異なり、話が脱線することはなかったのですが、字の丁寧さと解き方の話をするだけで丸ごと1回分になってしまいました…
次回は「好きこそものの上手なれ?③」として、“必勝法”の話をしたいと思います。次で一連の話を完結させようと思いますので、お付き合い頂けますと幸いです。