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好きこそものの上手なれ?③
2026.05.25
サピックス小学部 事業本部長 溝端 宏光
溝端 宏光
前回のブログ「好きこそものの上手なれ?②」では、字の汚さや解き方を書く・書かないについて触れました。その最後で、次は“必勝法”の話をすると予告しましたので、その話から始めたいと思います。
算数において、特定の場合に活用できる公式は、作ろうと思えばたくさん作ることができ、これらは“必勝法”と呼ばれることもあります。
“必勝法”と聞くと、身につければ身につけるほど算数の力が上がっていくように思えますよね。しかし、実際はそう単純なものではありません。
算数における「答を導くための決まった手順」の中には、汎用性が高いものもあれば汎用性が低いものもあります。また、成り立ちを理解しておいた方が良いものもあれば、成り立ちの理解は後回しで良いものもあります。
例えば、台形の面積を求める公式は、
(上底+下底)×高さ÷2
となりますが、これは使用する頻度が非常に高いですし、他の内容への広がりを考えると、どうしてこの計算で求められるかについても知っておいた方が良いでしょう。ですので、必ず身につけておかなければならないし、「なぜその方法で求められるのか」についても理解しておくことが大事な内容と言えます。
一方で、必ず身につけておきたいことだが、「なぜその方法で求められるのか」を理解することを優先しなくてよいものもあります。
一例としては分数の割り算です。分数の割り算は、 A B ÷ C D = A B × D C のように、割る数の分母と分子を入れかえたかけ算に直して計算します。このような分数の計算においては、「÷ C D 」 が 「× D C 」 となぜ同じなのかを理解することよりも、練習して計算方法に慣れておくことの方がはるかに大事です。このように、計算に関する手順やきまりについては、“習うより慣れよ”というものが多いですね。
ここまでに挙げた2種類はいずれも汎用性が高いものですが、特定の場合にのみ用いることができるあまり汎用性が高くない“必勝法”もあります。
なぜなら、この公式は円すいの表面積を求める場合にしか使えないからです。
SAPIXのテキストには、円すいを展開図にしたときに側面(底面以外の面)がおうぎ形になり、そのおうぎ形の中心角が、
360×半径
母線
(度)
となること、また円すいの側面積が
母線×半径×円周率で求められることが書かれています。
360×
半径
母線
(度)
となることを知っていれば、円すいの側面積は公式として知らなくても求められます。さらに、円すいの側面積が求められれば、円すいの表面積は底面の円の面積を足すだけですので、自力で計算できるはずです。
では、どこまでを覚えておくのが良いのでしょうか?
正直なところ、これにはいろいろな考え方があるため、問題集によっても扱いが異なるわけですが、私としては、円すいの側面積の求め方までは用いる場面が多いので覚えておいて損はないと考えています。
ただ、円すいの表面積を求める公式(母線+半径)×半径×円周率だけしか知らない子は、円すい台になった際に困ることになります。
昔、6年生の授業をしていて、そういった子に出会ったことがありました。おそらく誰かから円すいの表面積の求め方を“必勝法”として教わったのだと思いますが、 半径 母線 の話や円すいの側面積の求め方は頭に入っていなかったため、円すい台の問題が全く解けず、上記の説明を一からやり直すことになりました。
細分化されたパターンに最適化された公式を頭に入れていくと、覚えることが必要以上に増え、またせっかく覚えた内容も汎用性が無く他の場面では使えないということになってしまいます。
算数の得意な子ほど、根本の要点を押さえていて、頭に入れる量を減らしていることが多いです。
「基礎が大事」と言われるのはこれが理由ですね。基礎の内容をきちんと理解していれば、そこから派生する内容の理解も進みますし、細分化されたパターンごとに公式や“必勝法”を覚えていなくても対応できるようになります。要は、物事の共通項を見つけやすくなるわけです。
ただ、お子さまが自分自身でどこまでを頭に入れるべきかを判断するのは困難です。授業で講師がその強弱を伝えていますので、それを参考にして頂くのが良いでしょう。
もちろん、算数の好きな子が、興味・関心を持って、様々なパターンの考え方を頭に入れていくこと自体は悪くはありません。ただ、その際は、結論の公式や“必勝法”を覚えるだけではなく、「なぜ?」「どうして?」を大事にしてほしいですね。
一方で、算数があまり得意ではない子が、算数の力を上げたいと思って細分化されたバターンの公式や“必勝法”を覚えようとすることはお勧めしません。先ほども述べた通り、このやり方を有効化するためには、その公式や“必勝法”の成り立ちを理解していくことが必須になるのですが、算数に苦手意識がある子にとって、このことがまずハードルが高いです。
ですので、まずは汎用性の高い考え方を使いこなせるようにしていくことを目標にした方が、その後の学びにつながっていきます。
算数が好きな子は、“がんばったら解ける問題”に取り組むから面白いと感じるのであって、解けないものばかりが並ぶ問題集は面白いとは思えないものです。
先日あるイベントで、中学校の数学の先生方と座談会をさせて頂く機会がありました。その際に参加者の皆さんへのメッセージとしてお伝えしたことを紹介します。
勉強はよく山登りに例えられます。
山登りをするときに、頂上まで登りたいからと言って、頂上ばかり見て登る人はいません。そんなことをすれば、体に無理がかかって首が痛くなりますし、すぐに躓いてしまうことでしょう。
勉強も同じです。最終的に目指したい姿があるからと言って、そればかり意識していたのでは無理がかかってすぐに躓いてしまいます。
では、山登りをするとき、人は目線をどこに合わせるのでしょうか。
足元でもないですよね。実際は、足元よりも少し先を見て登っていくはずです。
学習においても、自分の今の学力よりも少し先、頑張ったら解けるレベルのものに取り組んでいくことが、学力を上げるコツですし、算数を面白いと思えるコツでもあります。
山登りをしていると、自分が上っているのか下っているのかわからないときもあるでしょう。ですが、ある程度のところまで来たときにふっと周りを見てみると、「こんなに高いところまで登ってきたのか…!」と実感できるときが来るはずです。
勉強においても、「こんな高いところまで登ってきたのか!」という感覚を多くのお子さまが持てることを願っています。