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「図形センス」の磨き方

2026.09.07

サピックス小学部 事業本部長  溝端 宏光

サピックス小学部 事業本部長
 溝端 宏光

以前のコラムでも触れましたが、小学生時代、テストで点数が取れるという意味では国語が一番得意でしたが、私が一番好きな科目は算数でした。
しかし、算数のすべての分野が好きだったわけではありません。嫌いな分野、苦手な分野は存在し、それが「平面図形」「立体図形」、いわゆる図形分野でした。
図形が苦手なのは、中学生、高校生になっても続き、実は、塾の講師を始めてからも、割と長い期間図形問題を苦手としてきました。特に“ひらめき”を必要とするような問題は全くと言ってよいほど解けず、「自分には“図形のイメージ力”(以下、“イメージ力”)が無いから図形問題を苦手にしているのだ」と考えていました。

大人、子どもを問わず、“イメージ力”が高い人というのは確かに存在します。“ひらめき”を必要とするような平面図形の問題でパッと方法を思いついたり、与えられた展開図からどのような立体が組み立てられるのかを頭の中で瞬時にイメージできたり……

ただ、何の予備知識が無くても入試レベルの難問が解けるくらい“イメージ力”が高い子はごく稀で、ほとんど存在しないといってもよいでしょう。“イメージ力”が高い子の中でも個人差があるのが実情です。

長年算数の指導に携わってきた経験から言わせて頂くと、実は、“イメージ力”の多寡と普段の算数の成績は必ずしも比例しません。算数の成績が良くても“イメージ力”はさほど高くない子もいますし、逆に算数の成績は普段さほど良くないが、“イメージ力”は抜群だという子もいます。後者のタイプの場合、図形の概形をイメージすることは得意だがその後の計算処理に慣れていないため答が合わない、図形以外の分野になると途端に出来が悪くなるといったパターンも珍しくありません。

私は、“イメージ力”は、その人固有の才能のようなもので、努力によって培われるタイプのものでは無いと捉えています。

なぜそのように感じるかと言うと、私自身、“イメージ力”がゼロに近いという自信(?) があるからです。自分でも笑ってしまうくらい、展開図から立体をイメージすることは全くできませんし、“ひらめき”を必要とするような平面図形の問題で自分独自の解法を思いつくこともほぼありません。30年以上にわたって算数の指導に携わってきましたが、その中で“イメージ力”が高まったという実感も特にはありません。
子どもたちの様子を見ていても、小学校高学年以降に何かの取り組みによって“イメージ力”が高まったという事例を少なくとも私は見たことがありませんし、他の算数担当の講師に聞いてみてもやはり同じような返答が返ってきます。そうしたことから、“イメージ力”は努力によって培われるタイプのものでは無いと思っているわけです。

少し話が逸れますが、幼少期の間に何かの取り組みをすることで “イメージ力”が高められる可能性はあるかもしれません。正確には、「可能性が無い」と断言できるだけの根拠を私が持ち合わせていないだけなのですが、機会があれば、幼児教育の指導経験が豊富な方に、何かのトレーニングで“イメージ力”が伸びることがあるのかどうか伺ってみたいと思っています。

ここまで読み進めてこられた方の中には、この話のどこが「『図形センス』の磨き方」なのか?と疑問に思われた方も多くいらっしゃることでしょう。“イメージ力”が乏しい人にとって救いのない話が多く並んでいますので、当然と言えば当然です。

その疑問を解消するヒントは、言い回しです。

私は、ここまでの話の中で、“イメージ力”という言葉は何度も出していますが、タイトル以外で「図形センス」という言葉を一度も使っていません。

もうお気づきの方もいることでしょう。私が長年の指導経験を通じてたどり着いた結論は、
“イメージ力”と「図形センス」はイコールではない
ということなのです。

あくまで私の捉え方ですが、“イメージ力”は無から有を生み出すその人固有の才能、「図形センス」は経験に基づく感覚です。
先ほど述べた通り、私には“イメージ力”が皆無なので、“イメージ力”の説明はもしかするとその能力に長けた人からすると「ちょっと違うぞ」と思われるものかもしれませんが、少なくとも、「図形センス」が経験に基づく感覚であるということは自信をもってお伝えできます。

自分自身の図形問題への取り組み方を振り返ると、苦手にしていた頃は、「一から解き方を見つけよう」としていたように思います。そんな斬新な解き方をいきなり見つけられるはずもなく、だから「解けない」「苦手だ」と考えていたのです。

図形問題には、定石の考え方と基本パターンがあります。
定石の考え方とは、「円やおうぎ形の絡む図形に補助線を引くときは中心から引くのが鉄則」「相似形を見つけたいときは、角度に記号を振って考えると見つけやすい」といったものです。また、基本パターンとはいわゆる“典型題”のパターンのことで、一見複雑に見える図形の中にも基本パターンが隠れているものです。要は、その隠れている基本パターンを見つけることが問題を解くポイントになるわけで、その際に、先ほど紹介した定石の考え方が役立ちます。

なお、立体図形については、できる限り3次元ではなく2次元で考えるテクニックが存在します。具体的には、「展開図に頂点記号を振る」「投影図を上手に利用する」などです。
これらも定石の考え方に含まれるものですが、立体が苦手な人ほど3次元で考えようとして、立体図形が得意な人は平面図を上手に利用する傾向にありますので、上手に活用してほしいものです。

私のように“イメージ力”が無いことを自覚している人には、“イメージ力”が無くても図形問題を解き進められる方法があるのだと知った上で、その方向で努力を続けて欲しいと思います。特に平面図形は基本パターンの種類が多いので身につけるまでが大変ですが、一通り身につけてしまえば、問題に当たったときに見える景色が全く違ってきます。
私自身がそうでした。定石の考え方と基本パターンを利用することを意識して取り組むようになった結果、今では算数が難しいとされる学校の図形問題でも解けるようになりました。

一方、自分の“イメージ力”に自信がある人も、自身の“イメージ力”では対応しきれない問題に当たったときに備えて、上記の取り組みをしておくことは非常に重要です。“イメージ力”が高い人ほど、必要性を実感する機会が少ないがために、定石の考え方と基本パターンの習得をおろそかにしがちです。
備わった“イメージ力”を活かすためにも、慢心することなく学習を進めて欲しいと思います。

まとめると、「図形センス」を磨くためのコツは以下の2点になります。

  • “イメージ力”は備わっていればそれに越したことは無いが、新たに身につけることをめざすものではなく、また既に備わっている場合でもそれだけに頼るのは危険
  • 定石の考え方と基本パターンを習得した上で、図形の中で基本パターンを見つけることを意識して問題演習する

目的意識を持って問題演習を積むことで誰でもスキルアップしていけます。そこから得られる感覚が、真の意味での「図形センス」なのだと思います。
私自身は、そのことに気づくまでにかなりの時間を要してしまいましたが、皆さんにはできる限り早くコツをつかんでもらいたいと思います。
このブログを通じて、図形問題に対して前向きな気持ちを持つ人が増えることを願っています。