Sサプリメント
もうすぐ“1歳半”
2026.09.24
サピックス小学部 事業本部長 溝端 宏光
溝端 宏光
サピックスの公式ブログサイト「Sサプリメント」は、2025年4月14日に始まりました。
中学受験に関する多くの情報が飛び交う今の世の中において、何が正しい情報なのかわからずに不安になっている保護者の方は多くいらっしゃいます。そうした方のために、SAPIXの公式情報を提供する場を作ろうと考えたのがきっかけです。
開設当日、私はご挨拶のブログをアップしました。「言語化」することの難しさとその重要性について触れたもので、今でもそのときに書いた内容はよく覚えています。
ちなみに、私のブログと教務本部のブログは【総括】というカテゴリーに入っています。各教科のブログとは別枠で、入試全般のことについて触れるカテゴリーという趣旨です。
その趣旨に沿って、同年の5月7日には、「中学受験フォーラムこぼれ話① ~偏差値の本質」、そして「中学受験フォーラムこぼれ話② ~志望校対策の意義 」をアップしました。
さらに、6月30日には「テストでミスを減らす方法」をアップ。これがかなりのビュー数を稼ぎました。
ビュー数を稼いだからと言って何か特別なことがあるわけではないのですが、多くの方に読んで頂けたという喜びを感じる一方で、「こういった直接的なタイトルの方が一般受けするのだな」と感じたことが記憶に残っています。
そこからもうすぐ1年半。
年齢で言えばもうすぐ“1歳半”です。
ふと思い立って、自分が今まで書いてきたブログを読み返してみました。
昨年のコラムは、【総括】カテゴリーの趣旨に沿った内容がわりと多かったように思います。ただ、今年に入ってからのコラムを読み返すと、「カテゴリー違いでは…」と思うような“バリバリの算数コラム”ばかり……。
どうしてこうなったのか…?
自分でもはっきりとは理由を認識していないのですが、記憶をたどると、どこかのタイミングで「授業で算数を担当しているので、その経験をもとにした話を少し交えてもよいのではないか」と思った気がします。
もともと、その時期その時期で自分が書きたいことを大事にしてきたブログではあるのですが、おそらく、一度算数について語り始めると、色々と書きたいことが出てきて止まらなくなってしまったのだろうと思います。
実は、過去にアップしたブログ以外にも、「解くスピードを上げるコツ」「テスト中の見直しのコツ」「算数における『読解力』とは?」という算数をテーマとしたブログが未完成のまま眠っています……。そのうち形にできたらと思います。
今回の内容も、「『もうすぐ“1歳半”』のタイミングを機に、今回は算数以外の科目にも役立つ話にしよう!」と思い立って書き始めたものの、結局、ほぼほぼ算数の内容になってしまった……というものです。
今回のテーマは「“ノリ”と“勢い” ときどき検証」
中学受験をするのは小学生です。
大人であれば慎重に答えるところを“ノリ”や“勢い”で答えてしまう。「小学生あるある」です。
「菅原道真」⇒「管原道真」
「福沢諭吉」⇒「福沢論吉」
といった漢字間違いは定番のものですし、算数の問題で「池の周りの長さは何kmですか?」と問われた際に「2000km」と答えるのも定番の間違いです。本来は2000mを2kmと直して答えなければならないところで単位換算を忘れたわけですね。周囲2000kmの池などあるわけないので、答を書く際に「おかしいな?」と思って欲しいところですが……。
中には、
①「ア~エの選択肢から一つ選びなさい」という問題で「1」と答えた
②「全部のくいに色を塗ることができますか?」と問われた際に、「5」と答えた
という子もいました。「こんな間違い方するのか……?」と思われるかもしれませんが、実は①はそれなりに見かけます。特に、「ア 1倍 イ 3倍 ウ 9倍 エ 27倍」のように、数値を選択肢から選ばせる問題だとこういった間違いは起こりやすいです。
それと比べると②は発生頻度が低いですが、それでもこの間違い方をした子を私は過去に数人知っています。当然、「できる」「できない」の2択で答えるべき問題なのですが、なぜ数字で答えようと思ったのでしょうか?会話が成り立っていないですよね……。
このような間違いを見ると、保護者の方は頭を抱えることでしょう。わが子を叱るケースも多いのではないでしょうか。
上記のような間違いは注意力が散漫なときに起こりやすいものですので、慎重に取り組むように促すことは必要です。叱ることもときには必要でしょう。
しかし、“コテンパンに叩きのめしたら良い方向に向かう”という単純なものでは無いことは知っておく必要があります。
「演繹法」と「帰納法」という言葉があります。この2つは、論理的に思考する際の代表的な方法です。簡単に説明すると、「演繹法」は、既知の内容を組み合わせていくことによって新たな結論を導くという思考法、「帰納法」は、複数の具体的な事例から共通する性質を見出していくという思考法です。
有名な「三段論法」も「演繹法」の一つですね。基とする論理が正しければ必ず正しい結論が得られますが、基とする論理に誤りがあると、得られる結論が必ず正しいとは言えなくなってしまいます。だからこそ、演繹的な思考をする際には慎重さが求められるわけです。
一方、算数の規則性の問題では、表面上のルールを理解した上で、試行錯誤を通じて「どうやら○○の規則がありそうだ」という“推察”をしていきます。このような思考が「帰納法」です。
「帰納法」は具体例からの“推察”ですので、必ずしもそれが正しいという保証はありません。推察したものが正しいかを「検証する」ことが大事であり、そのためにはやはり慎重さが必要です。
このように書くと、「やっぱり慎重さを備えることは大事なので、雑な子に対しては叱ってでも矯正したほうがよいのではないか」と思われる方がいるかもしれません。
ここで忘れてはいけないのが、「帰納法」の前提は“推察”することだという点です。“推察”は100%の確証がないから“推察”と呼ぶわけです。つまり、「何となく○○な気がする」という直感が必要になるわけです。
慎重さを求めるあまり、100%正しい思考だけを大人が要求し続けると、この“推察”ができなくなってしまうのです。先ほど、“コテンパンに叩きのめしたら良い方向に向かう”という単純なものでは無いと述べたのはこれが理由です。
実は、算数の問題においては、演繹的な思考をする際にも、「どの方向に考えを進めていけば上手くいきそうか」を“推察”して考えを進めていく必要があります。そのため、“推察”の要素は算数全般で大事なのです。
算数が得意な子の中には、“破天荒”なタイプが一定数含まれます。一つ一つの行動を見ると粗が目立つが、直観力に優れているというタイプの子がいるわけです。
そういった子に、慎重さを求めるあまり100%正しい思考を要求し続けても上手くいかないことが多いです。最悪は、長所を潰してしまうことになりかねません。
私の経験上、このタイプの子に対しては、多少の粗には目を瞑り、発想力を活かしてもらうアプローチの方が上手くいくことが多いと感じています。
もちろん、だからと言って慎重さを全く持たなければ苦労する場面は出てきますので、結局のところは「どこでバランスを取るか」という話になります。
大人が考える「理想の状態」は慎重さに偏ることが多いものです。
しかし、どのバランスが良いのかは、科目によっても、そしてその子のタイプによっても大きく変わります。
「“ノリ”と“勢い” ときどき検証」は、私が算数の授業を担当する上で心掛けていることです。子どもたちの“ノリ”や“勢い”は大事にしつつ、その合間でちょっとずつ検証の大事さを伝えていくという力加減ですね。
ぜひ、保護者の方にも、わが子にとってちょうど良いバランスを見つけて頂きたいと思います。どのバランスが良いのかを見つけるためには大人の側も試行錯誤が必要です。その際は、指導に当たっているサピックスの講師の感覚もぜひ参考にして頂けると良いのではないでしょうか。